…だけど、どうしても

「うちの親が、夏の休暇を別荘で過ごすけど、花乃も来ないかって。」

紫苑がそう言ったのは、もう夜が遅くなってから。
久しぶりに紫苑の部屋に行き、私が晩御飯を作り、すっかり片付けて、ソファで温かい紅茶を飲んでいる時だった。

「え? 紫苑は?」

「花乃が来るなら都合つけるよ。まあ2泊が限界だろうな。正直、それどころじゃないんだけど…うるさくて。特に母親が。お前のことえらい気に入っちゃって。」

紫苑は心底面倒くさそうに大きなため息をつく。

「だから来てくれても鬱陶しいとは思うんだけど。やれ結婚はいつだ、式は、会場は、白無垢か、ドレスか…こっちの言うことなんか聞きやしない。」

「そんなこと言わないで。嬉しいわ。行くから、紫苑も頑張ってお休み取ってね。」

少し甘えた声で言うと、紫苑は虚を突かれたように目を瞬かせてから、満足そうに笑う。

最近気づいたことだけど、私が何かちょっとしたことを頼んだり、頼ったりすると、紫苑はとても嬉しそうにするのだ。
そういえば、高木さんに、花乃ちゃんには我儘が足りない、あいつは花乃ちゃんに甘えられたら飛び上がって喜ぶぜ、なんて言われたことがあった。
あの時は、甘えるなんてどうやって、と戸惑ってしまって、高木さんのアドバイス通り、8時までに帰ってきてくれる? と、意味がわからないまま言った。紫苑は確かに極上の笑顔を見せてくれた。

「高木さんは、お変わりない?」

「は?」

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