…だけど、どうしても

途端に紫苑が不愉快そうに眉を寄せ、鋭い目つきで見てきた。

「このタイミングでなんであいつの話?」

「なんとなく、思い出して…」

「だからなんでこのタイミングで、他の男のこと思い出してんだよ。」

言うが早いか紫苑は私の手からマグカップを取り上げ、自分のと合わせてテーブルに置いてしまった。

「あいつは相変わらずだ。安心しろ。」

私の頬を手のひらで包み、真正面から顔をのぞき込んでくる。

「あんな奴のこと思い出す余裕があるなんて、もうすっかり体調はいいみたいだな。」

「もうずいぶん前から私は元気よ…」

いきなり深いキスをされた。そうだった。紫苑はやきもち焼きだった。ムキになって私の頭の中を紫苑でいっぱいにしようとしてくる。私はおとなしくキスに応えた。

手が服をまさぐリ、腰骨からウエストを直に触れてなぞってきた。

「やっと肉も戻ってきたみたいだ。」

唇を離して紫苑がにやりと笑う。

「やだ、太った?」

「お前は少し太ったほうがいい。」

そう言うと、触れていたそこにキスをした。ふいにぞくっと背筋に快感が走り抜けてびっくりした。
紫苑にこんなふうに触れられるのは久しぶりなのだ。
手と唇が肌に触れながらどんどん上ってきて、あっという間に服がはだける。
下着から胸を半端に零し、片側の肩が露わになった私を見下ろして、いい眺めだな、と紫苑が意地悪く笑った。

「随分お預け食らったからな。今夜は覚悟しろよ。」

脚を撫で上げながら、紫苑が獣めいた光を目に宿すのを見た。
紫苑がこうなったら私は何度も啼かされることが決まっているのだ。
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