…だけど、どうしても


ようやく息が静まっても、私達は裸のまま絡み合って、布団に包まっていた。
それはもう何にも代え難い気持ちよさで、私はもうこの人を失わないのだと思い知らされて、信じられないほど幸福だった。

何も言わずに見つめあいながら、紫苑は飽きることなく手のひらや指で私の肌を撫でている。

「愛してる。」

紫苑が熱っぽい瞳で、そう言った。
私の左手を布団の中から探り当て、引っ張り出して、手のひらに、それから指先に柔らかくキスをする。

「…愛してる、花乃。」

このたくましい腕に、あの夏の日、私はプールに落とされて、恋にも落ちてしまった。逃げても逃げても、引き戻されて、逃げ道を阻まれ、今こうしてその腕の中に居る。

紫苑、お願いだから、ずっと愛して。
貴方にこんな気持ちを教えられてしまったら、もう貴方がいなくちゃ、どうしようもないわ。

こんなことを誰かに言える日が来るなんて、思ってもいなかったの。

「私も、愛してる。」

少し目を見開いて、それからその瞳が眩しいほどの喜びに満ちて、紫苑が幸せそうに微笑んだ。




終わり
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