…だけど、どうしても
ざっとかいつまんだ俺の話を聞き終えて、一体何が興味深いのか、高木はしきりに頷いていた。
「はー、なるほどねえ…」
俺の部屋で勝手にパスタを作り始め、俺に食わせ、自分も食べながら、俺を促してすっかり吐かせた。
ワインでも飲めばいいのに、飲み物はペリエだ。今夜も自分の家に帰ったら仕事をするのだろう。ワーカホリックだ。とはいえ同類の俺も奴を笑えない。
「でも執事がいるくらいなら相当なお嬢様だろ。案外お前の身近にいるんじゃないのか?」
「会ったことあったら、とっくにモノにしてる。」
「そんなに好きなら探し出せよお前、何呆けちゃってんだよ。らしくない。」
「探そうとは思ってるんだ。ただ…」
彼女はきっと、探されたくはない。言い淀む俺を気にかける素振りも見せず、高木は鼻で笑う。
「んっとにお前は…だからもっとセレブコミュニケーション取っとけっつってんだよ。この一匹狼がよお。」
面倒くさがってどのパーティーにも顔を出したがらない普段の俺の態度をここぞとばかりに責められる。
芹沢コーポレーションの跡継ぎ、芹沢紫苑と言えば業界で名前を知らない者は居ないだろうが、俺個人の顔を知っている者は少ないかもしれない。
俺はいつでも仕事だけで他人を黙らせてきた。きらびやかなパーティーに出席してニコニコして、コネを繋げて…というやり方は趣味じゃない。女に囲まれるのも昔は面白かったが、今は疲れるだけだ。
「とりあえず、明日から招待されたパーティーには片っ端から出席して探し回ること。俺も調べとくから。庶民には庶民のネットワークがあるんでね。下の名前はなんていったっけ?」
「カノ。」
「カノね。カノ…」
高木は、口の中で反芻して、ん? と首をかしげた。
「カノ…?」
そしてグラスに残っていたペリエを一気に飲み干すと、おもむろに立ち上がった。
「じゃ、帰るわ。仕事に加えて探偵業務もあるんで。」
「なんか…妙に協力的だな。」
「何言ってんすかあ〜次・期・社・長! 部下は使ってナンボでしょ!」
俺が不愉快そうに睨みつけると、高木は、ククッと喉を鳴らして笑った。
「れっきとした非常事態だろ。しかも、俺の得意な人探し。まあ待ってろって。」
高木は、そう言ってやたらと足取り軽くリビングを抜け、玄関を出ていった。