…だけど、どうしても

目の前の男性ににこやかに対応しながらも、あまりに強い俺の視線に気づいたかのように。
人々の隙間から彼女が顔を傾け、ふと何気なくこちらを見た。

彼女が俺に気づいたその瞬間、俺は歩いていたかどうかわからない。目が合った時、俺の足は止まっていたのかもしれない。
何度でも、俺は彼女に見惚れる…

花乃は僅かに目を丸くして、そして…俺にだけわかるように微笑んだ。それからまた別の男に話しかけられ、さりげなく俺から目を逸らし、そちらに身を翻して談笑を始める…

俺は、自惚れていたのか、それとも彼女の特別な男になり得ていたのか、会えないこの一ヶ月間、結論を出しかねていた。
そして今、向けられたその笑顔を目にすると、やはり俺だけは特別なのだ、という思いに支配される。これまでの経緯が、俺に、確信を抱かせない。けれど。 

「芹沢君」

「パパ!」

進行方向と逆に、グンと腕が引っ張られた。
振り返ると招待主でありミイナの父親である、タキシードに身を包んだ貫録たっぷりの男性がにこやかに近づいてくるところだった。ああ…何故、今なのか。

「ずいぶん久しぶりじゃないかね。どういう風の吹き回しなんだ?」

「ご無沙汰しております…」

俺は気もそぞろに挨拶をする。できるだけ早く終わらせようと強張った笑顔になってしまわぬよう、気をつけた。幸い、主催者は忙しい。ミイナが余計な茶々を入れないように牽制すれば、早々に当たり障りのない会話を切り上げることができた。
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