…だけど、どうしても
外門に辿り着く直前で、後ろから肘を掴んだ。
息を切らせた彼女がバランスを崩した。
俺が身体に腕を回して支えると、諦めたのか足を止めて、振り返った。
汗で立ち上った彼女の香りと、揺れた髪で舞い上がった香水の香りが混ざった匂いを吸い込んで、俺は一瞬くらりとする。どうしてもベッドでの彼女を思い出さずにはいられなかった。また俺はおかしくなりそうだった。
「どうして逃げるの。花乃。」
俺の息も少し切れている。声がかすれた。
「ねえ、なんで俺を避けるの、東倉花乃。」
彼女がびくっと反応した。
そうして伏せた目を上げた時、彼女はもう俺に対する態度を選択したらしかった。
口元に、作り慣れた静かな笑みを浮かべた。
「逃げてなんか…避けてなんか、ない。お久しぶりです。…芹沢さん。」
「やめろよ。」
苛立った声を上げた。
彼女に焦がれて焦がれて仕方なかったはずなのに、彼女の一見親しげで、実は他人行儀な態度が、俺の神経を逆撫でしていく。
また彼女に苛立ちをぶつけてしまわないように、大きく息を吐く。
「…送るよ。」
「いいの、タクシーを拾うから。ありがとう。」
彼女は即答になってしまわないよう、慎重に間を少し空けて、穏やかに拒絶する。
「それに少し外の風にあたってからって思ってるから…」
「どうして、…俺、何かした?あんたに嫌われるような、」
「嫌うだなんて。」
「礼を身体で払って欲しいわけじゃないって、言ったよな。」
「……」
彼女がうまく言葉を選べず沈黙する。
俺の腕の中からあくまで自然に抜け出そうとするその肩を掴んで反転させ、正面から顔を見た。