…だけど、どうしても

「好きなんだ。わかってるだろ。花乃は違うのか。俺は…」

俺は、気のせいだと思いたくない。花乃も確かに俺を求めていたはずだ。自惚れなんかじゃなかったはずだ。そうだろ?

花乃は動揺したように瞬きをして…何故、動揺するのだろう。わかりきっていることを言っただけなのに。唇をかすかに震わせ、言葉に迷っている。
何故迷う。俺が信用できない? 芹沢家の人間だから?
頭に血が上った。元々俺は短気だ。こう掻き回されたら、たまらない。

「芹沢さん、」

耐えきれずにその唇を塞いだ。
腰を引き寄せ、髪に指を差し込んで、逃げ場を取り上げる。

「んんっ…!!」

花乃が首を振ろうとするが俺は許さない。
舌を絡め取り、音をたてながら彼女の口内を犯す。後ずさる彼女の背が門に当たり、退路を断たれる。
人が出入りする時間じゃなくて助かった。陰になっているとはいえ、会場の敷地内で、こんなことをしている。
唇を離すと、彼女を抱き締めた。

「そんな呼び方するな…」

耳元で囁くと、花乃の身体がビクン、と震える。欲情したように? 俺は期待する。
あんな声で、あんなに、俺の名前を呼んだのに。
あの夜を喚起させるように、わざともう一度耳元で呼ぶ。

「花乃…」

花乃が思わず息を漏らす。
もう少し…もう少しで、堕ちる。俺の手に…

「あ、のっ…芹沢さっ…」

言い終える前に、罰を与えるように耳を舐める。

「違うだろ」

花乃が息を飲む。
いやらしく、耳の輪郭を舌でなぞる。

「や、やめて…」

「ちゃんと呼んで。」

じっくりと…耳の中にたどり着くまで時間をかけて舐める。

「やっ…やめ…」

首筋に指をかける。
また、花乃が身体を震わせた。指先を滑らせる。首筋…鎖骨。耳を舐め回している舌を、ねっとりと中に侵入させていく……早く、堕ちろ…

「ん、あっ…紫苑…!!お願いだから…!!!」

花乃が叫んだ。甘い空気を切り裂くほどに切迫した声だった。

俺は手を止め、顔を上げた。
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