…だけど、どうしても

2.



そうして、彼と時々会うようになって。
多い時は週に2日くらい、少ない時で2週間に一度くらい。彼は平日は必ず大学まで迎えに来てくれる。
とても忙しい人のはずだ。無理やり時間を作ってくれているような気がしてならない。
車だから、と言ってどこのレストランに連れて行ってくれてもお酒を飲まないけれど、本当は私を送り届けた後、仕事をしているんじゃないかと思う。

そんなことは心配しなくていい、と彼は笑い飛ばす。

「部下に仕事押し付けてきてるから。」

そんな冗談ではぐらかして、私を笑わせる。

彼と居ると、たくさんの人が感嘆の表情で振り返り、度々あらゆる人から遠慮なくたっぷりと眺められるけれど、彼は人々の不躾な視線を浴びることに、とても慣れている。
まるで自分の美しさが蜜のように人々を惹きつけてしまうことなんか、呼吸することと同じくらい当然のことだと考えているように、何処でも堂々とリラックスして、何も意に介さずその瞳に私だけを映して私だけに話しかける。

たくさん話して、私たちは、初めて出逢った3ヶ月ほど前に比べたら、お互いのことを遥かに知るようになっていた。

彼はその他人を一切視界に入れないといった態度も手伝って、一見クールでミステリアスな雰囲気だ。
けれど、私の父と、彼の祖父の微妙な関係については巧みに避けながらも、自分のことについていつも開けっぴろげに話してくれる。

彼のお父さんは、お祖父さんの会社をもちろん継ぐつもりで芹沢コーポレーションに入社したのだが、修行中、地方の支社の社長をしていた時に、その地で今の奥様と出逢い恋に落ちたのだそうだ。
奥様の故郷であるその地にそのまま骨を埋めることにしたので、さっさと後継者のポストを手放し、派遣されていたその支社を独立させ、結婚して紫苑が生まれた。
現在もその会社の社長業を継続しているそうだ。


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