…だけど、どうしても

彼は謝ってから私を抱いた。謝ることなんかないのに。あんなに…あんなに凄絶な色気を放ちながら、狂おしく求められて、嬉しくないはずがないのに。

本当はあの時、逃げるべきだった。彼から完全に逃げ切りたいのならあそこで抱かれるべきではないことは、明白だった。

だけど、私は、悦びに震えて。

獣じみた彼の欲望に、どうしようもなく胸を締めつけられて。何度も何度も、飽きることなくこんな私を求め続ける彼を、恍惚として受け入れた。

軽々と私を抱き上げ、ベッドに組み敷く筋肉質な腕、身体中隅々まで触れる指、乳房や腰を掴む大きな手、苦しげに寄せられる眉、たまらないとばかりに時折漏れる呻き声、肌にかかる熱い吐息、頭の中が蕩けて気の遠くなるようなキス、私を翻弄する艶めかしく荒々しい腰の動き、私を満たすあの熱、滴る透明な汗の雫、私を見つめるあの眼差し…

もう、十分。一生に一度だけの夜。あの夜だけで私は心は生まれ変わったように、喜びに溢れて、瑞々しい。

私が黙って消えて、きっと気の短いあの人は、怒るだろうか。とんでもない女だと怒って、忘れてくれればいい。
あの人ならきっと、行きずりの女と一夜を過ごすことなんか、よくあるだろう。私のこともそうやってよくいる女だったと、忘れてくれればいい。
そう。

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