…だけど、どうしても
4.
取り落とした傘が、足下に転がっている。
私達は、また、頭からずぶ濡れになって…互いの唇を貪り合っている。
懐かしい、と彼の唇を感じたのは一瞬で。
後はもう彼の激しさを受け止めることで精一杯だった。彼の世界には私しか存在しないんじゃないか、なんて馬鹿な勘違いをするくらい、一心不乱なキスだった。
私だって夢中で、舌を絡めあわせて。口元から伝って落ちていくのが、唾液なのか、雨なのか、もうわからない。
彼に一分の隙間もないほど身体を押しつけられて、抱きしめられて。雨に打ちつけられていたって、全然寒くなんかない。
こんなに求めて、求められることが、私の人生に起きるなんて。だけどもう、信じられないなんて言っていられないくらい、彼の舌の熱さは私に現実を突きつける。
ああ、なんて…
私は意識が溶け出してなくなりそうになりながら、ただただ、呼吸を忘れるほどに狂おしく永い永いキスをした。
やがて、どちらからともなく熱い息を漏らして、唇を離す。
黒髪から睫毛から雨の雫を滴らせて、彼はぞっとするほどの色気を立ち上らせ、私を見つめる。
何も言わず、私を抱えるようにして身を翻すと、車の後部座席のドアを開けてそこに私を乱暴に押し込んだ。
そのまま自分も乗り込んでドアを閉め、私に覆い被さる。首筋に舌を這わせながら、せわしなく私のブラウスに指をかける。
「し、紫苑…」
ぴくりと彼が反応して、一層もどかしそうにブラウスのボタンを外していく。
「ちょっと、待って…」
「もう待った。」
息も絶え絶えになりながら言う私に、短く言い捨てる。
「だって、ここ…」
「もう3ヶ月も待った。」