…だけど、どうしても
冬 これ以上(前)
1.
あんな女のどこがいいのかさっぱりわからない、と、高木は負け惜しみというふうでもなく、心底からそう言う。
「そういない美人なのは認める。でもそれだけだろ。何も無い。」
主張も無い、意志も無い、意見も無い、欲も無い、あの手の女はワガママだって言わないつまらない女だ。
何故一回ちらりと見かけただけの女をそこまで酷評できるのかと苦笑してしまうが、しかし高木の人物評は今までずっと信用してきた。
「あんな女と付き合って楽しいのか?」
「楽しい?」
俺は思いがけない問いかけに驚く。
「楽しいか楽しくないかと聞かれれば楽しいけど…そんなこと考えたこともなかった。」
「じゃ、何考えてんだよ。」
「………笑顔が綺麗だな、とか…?」
「気色悪いんだよ! お前誰だよ! ほんとに芹沢か?! 女をとっかえひっかえ泣かせきた百戦錬磨のあの芹沢か?! 頭ん中だけ別人になってねえか?! そもそもそれ思ってても言わねえだろ! 恥ずかしいんだよ! 胸に留めとけよ!!」
高木が突発的にキレて捲し立てる。
「失礼だな…お前が聞いてきたんだろ…」
俺も心当たりがありすぎるほどあるのであまり強くは出られない。
本当に人が違ったように、俺は一人の女のことだけ…一人の女を喜ばせることばかりを考えている。
確かにどうかしている。自分でもそう思うのだから、周りが驚いて当然だ。
自分がこんなに闇雲に一人の女ばかり求める男だとは知らなかった。自分の熱情ともいえるような感覚を持て余してさえいる。