…だけど、どうしても
言われて初めて俺はそのことについて逡巡する。
「違うのか?」
黙った俺に高木は意外そうに目を剥いた。
確かに、あの花乃が、誰かを好きになったことなどあるのだろうか…いやむしろ、誰かが、あの花乃を手に入れたことなど、あるのだろうか?
「処女では…なかったな…」
へえー! やるもんだ、などと高木は面白そうに言う。
なんでこんな話をお前にしないといけないんだ、それこそ気色悪いだろ、と俺はぼやく。
一人の女に執着したことなどなかった俺の女関係を把握しようとも口出ししようともしてこなかった高木も、今回ばかりは様子が違うことを呆れながらも面白がって、時々こうして何か聞き出そうしてくる。プライベートの話しなどしたくはないが、今の状況は高木のアシストのお陰でもある…そして柄にもなく俺はそれに感謝などしてしまっているので、この貸しは必ず返さなくては永遠にこいつに馬鹿にされると思いながら、つい口を滑らせてしまう。
そして奴はこうして花乃に関しては役に立たなくなっている俺の脳みそに、的確な疑問を刺してくる。
花乃は、自分から俺を求めることはなくても、男を喜ばせる術を知っている。悦び方を、知っている…
そのことに、今更違和感を覚えた。溺れ過ぎだ。俺は、今しか見えていない。過去のことなど、知ろうとしたこともなかった。
花乃が俺を見る目は、間違いなく俺を好きだと言っている。それは間違いない。
あの雨の夜までは、俺の自惚れなのか、願望なのかと、確信できずにいたけれど。
過去の男に嫉妬するつもりなどないが、やっと手に入れたはずの花乃に時折覚える苛立ちの理由が少しわかった気がした。
俺は花乃をまだ知らないのだ…