…だけど、どうしても

「もう少しでできるからちょっと待ってね。ビール飲んでる?」

「今日は泊まっていくの?」

「え? 明日、1限があるから…」

「じゃあ送ってくよ。ビールはいらない。」

「ねえ、紫苑、いつも言ってるけど、一人で帰れるから平気よ。お仕事で疲れてるんだから、ビールくらい我慢しないで。」

「俺は明日の朝、花乃を大学まで送ってから仕事に行くんでも、全く問題ないけどね。」

往生際悪く食い下がる俺に、花乃は困ったように眉を曇らせ、口元で曖昧に微笑んでいる。
いつもの攻防戦だ。結局、抱いて眠らせることでしか、俺が勝つことは無い。二度ほどそれをしたが後悔するだけなので、もうするつもりもない。
だから、冷蔵庫に酒は入っているのに、一緒に食事をしても俺がアルコールを口にすることはない。なんともささやかな抵抗だ。

俺はちらっと花乃に意地の悪い眼差しを送って笑いかけてから、食卓の支度を手伝い始めた。
花乃もおとなしくきれいに盛りつけたおかずを運び始める。

「明後日の、リーアン社主催のパーティー、出る?」

花乃は眼を瞬かせてから、頷いた。

「え、そうね、出ると思う…」

「親父さんの代理?」

「ええ…父はあまりそういう場に顔を出さないの。昔はよく一緒に行っていたんだけれど。」

「そうか。なら、俺も行くわ。」

「えっ?」

花乃が冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを取り落としそうになるほど驚いているので、俺は瓶底を手のひらで掴んでそれを引き受けながら苦笑する。

「あのな。花乃が今まで俺に会ったことがなかったのは、俺が徹底的にパーティー関係の招待を無視してたからだ。花乃がいるなら、行くよ、俺も。変な虫がついたら大変だからな。」

虫って…と口の中で呟きながらも、花乃は納得している。
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