…だけど、どうしても
「俺、始まる時間には着けないと思うから。それまで変な男に絡まれないように。」
髪を束ねているシュシュを抜き取りながら、構わずそう言う。
「変な人なんていないわ。リーアン社のパーティーは前にも行ったことがあるし…」
「いいから。」
言い募る喉を指先で辿り、首の後ろに這わせて、顔を上げた花乃に柔らかくキスをした。
唇を離すと、花乃がまた上目遣いで見てくるので、何か言う前にまたその唇を塞ぐ。
吐息混じりに開いた口に舌を滑り込ませ、ゆっくりと絡め合わせる。背骨に沿って指先を滑らせると、細い肩が微かに震えた。
「…食べようか。」
名残惜しみながら離れてそう言うと、花乃ははみかみながら頷いた。
その顔を見ると、俺はこれ以上欲しいものなんて無いんじゃないか、と思ってしまう。過去も未来もどうでもいいような気がしてくる。彼女がこの部屋に自分の痕跡を残そうとしなくても、今夜の約束さえしてくれなくても、今この笑顔を手にしているのが自分なのだから、それで十分ではないかと、それ以上のものなどないではないかと、そんな気がしてきてしまうのだ。
「この家、土鍋がないのね。寒くなってきたからお鍋でもしようかと思ったんだけど、土鍋がないから、お鍋風にしてみたのよ。」
「じゃあ今度土鍋を買いに行こうか。冬に備えて。」
「そんな、わざわざいいの。そんなつもりで言ったんじゃないの、ごめんなさい。」
…彼女がけして、未来の話をしようとしなくても。