…だけど、どうしても
3.
都内の有名ホテルの大広間にはあちらこちらにカウンターバーが設置され、あらゆるところでボトルが間接照明で輝き、シックながらもきらびやかに装飾されていた。
そんな雰囲気を考慮してか、花乃は紺のシルクにラインストーンが散りばめられた、イブニングドレスを着ていた。
本人が言うように、派手という表現は似つかわしくないが、十分に目立つ美しさを纏い、相変わらず穏やかで優美な微笑みを浮かべていた。
「ほーぉ、あれは確かに…」
入り口から離れたところに居ようが真っ先にその姿を確認したのは俺だけかと思ったが、高木もしっかり花乃を見つけ、舌を巻いている。
「あれは男がほっとかないな。お前が過保護になるのもわかる。」
「あんだけこき下ろしてたくせに…」
「俺の趣味じゃないってだけだ。美人なのは知ってたよ。しかしずいぶん色気が増したな。お前のせいか?」
「知らん。」
一言で切り捨てはしたものの、白い肩を剥き出しにして、身体の柔らかな曲線をそれとなく強調させている花乃の姿は男なら誰でもたまらないだろう。品の良さの中にも何か匂い立つ色香を感じさせる。
「あれはリーアンジャパンの社員だ。名前はたしか、青山。出世は間違いないって言われてるぞ。」
ウイスキーをオーダーしてから、二人で花乃の元へ向かう途中、高木が花乃が今話している男性について、さり気なく耳打ちしてくる。見たところ年齢は俺達とそう変わらず、花乃を見つめる両目が明らかに熱い。高木が傍目にはそうとわからないように喉を鳴らしながら密かに笑っている。
面白くなさそうな俺を尻目に、高木がいち早く口を開いた。
「やあ、青山さんでしたね? お久しぶりです。」
青山、と、花乃が同時にこちらを見た。