…だけど、どうしても

「いえ、私も今、ご紹介して頂いたばかりで。こちらは芹沢コーポレーションの高木さんです。」

「ご無沙汰しております、澤柳さん。副社長になられたんですね。」

「君が急に真面目になって武者修行してるうちに、私も出世したんだよ。君にも会ったことがあるな? 高木くん。」

「一度ご挨拶させて頂いたことがあります。本日はお招き頂き、ありがとうございます。」

高木も殊勝な態度で頭を下げる。

「さてそちらの素晴らしい美人さんはどなたかね? 紹介してくれたまえ、青山くん。」

「ああ、こちらは東倉商事の…」

その時青山が手を花乃の腰に回し、触れた。花乃は気にした様子もなく、軽く頭を下げる。

「東倉花乃です。初めまして。青山さんにはいつも良くして頂いております。」

「あ、すみません花乃さん、グラスを持って頂いたままで…」

青山は慌てたようにグラスを花乃から受け取ろうとして、手に触れた。間違いない。さり気なさを装っているがわざとだ。しかし花乃はにっこり笑ったまま、眉一つ動かさない。

しばらく五人で談笑し、青山は副社長に連れられてその場を離れた。去り際に青山はちらっと花乃に意味有りげな視線を送ったが、花乃はわかっているような、いないような笑顔で応えるだけだった。

「…本当に、来るとは思わなかったわ。」

三人になり、花乃がそう言って笑った。高木はようやく開放されて噴き出している。

「いや、見事だね、花乃ちゃん。紫苑が面白くて面白くて…」

「えっ?」

「行くって言ったろ?」

「そうだよ、こいつはもう、花乃ちゃんのことしか頭になくて、なのに、君ときたら…」

「煩い高木黙れ下衆。」

「いや偉いよ、よくキレずに耐えた。俺は褒めてる。」
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