…だけど、どうしても

花乃は俺達のやり取りに目を白黒させている。
高木はもっと喋りたそうだったが、俺は声を張り上げず、そうとは見られない態度で、罵倒を繰り返して追い払った。

「あの、よかったの…? 仲が良いお友達なんでしょ?」

「いいんだ。あいつ、俺が花乃を見つけるのに一役買ったから調子に乗ってる。」

「そんな…」

とはいえ、俺も花乃もいつまでもそうはしていられず、ゆっくり話もできないまま、それぞれあちこちに引っ張られることになった。
後でね、と花乃は言ったが、俺は常に花乃を視野に入れて動いた。
そして、俺の懸念は的中していることを思い知らされた。

男たちは、みんな青山と同じだ。
隙があれば花乃に触れる。セクハラにならない程度に、しかし確実に故意に触れる。
若い奴の中にはあからさまに流し目を送る者もいるし、顔を赤らめる純情型もいる。
まれに、隠しだてもなく、誘うようにいやらしい手つきで腰など撫でられそうになると、すっと身を引くが、花乃は笑顔を崩さない。
周りを見れば、視姦しているような眼差しで遠くから花乃を見つめる男だって、一人や二人じゃない。

冗談じゃない。不愉快極まりなかった。
時々近づいてくる高木は、どんどん不機嫌になる俺を半笑いで見ていたが、忙しそうにまたすぐ離れ、やがて消えた。

ところが、俺が気乗りしないお偉方との会話を切り上げた時、すっと近寄ってきて俺の胸ポケットに何か滑り込ませてきた。

「また、これ貸しだな。気のつく犬を持ったことを有り難く思えよ。金はまたでいいから。」

「は?」

「お前御曹司で大変だなァ。こういう時思い立ってもすぐ身元割れるもんな。今スキャンダルはまずいもんなー。」

じゃ、花乃ちゃんによろしく、と言って、今度こそ飽きたように高木は帰っていった。

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