…だけど、どうしても
でも、とにかく私には彼から逃げ回ったという前科があるし、明日は日曜日だし、あまり断る理由はなかった。
人もまばらになってきたところだったので、私は引き上げてこの部屋に向かうことにした。
エレベーターで向かいながら、だいぶアルコールが回っていることに気がついて、タクシーに乗るよりも、直接ここへ来たほうが楽だったな、と少し救われた気分だった。
部屋はセミスイートだった。
夜景が綺麗で、窓辺に立ってしばらく見とれた。クリスマスが近いからか、東京の夜は一層華やかに見える。
それから、ベッドに飛び乗りたい気持ちを抑えて、鏡台の前でアクセサリー類を外そうとしていると、ドアが開いて、少し疲れた様子の紫苑が入ってきた。仕事の後はこんなに疲れた顔はしないのに。と思いながら、セットした髪が少し崩れて、またそれが色っぽい彼の顔を見ていると、機嫌が悪そうなことに気がついた。
「お疲れ様。…急にどうしたの?」
「迷惑?」
「そんなんじゃないけど…高木さんは?」
「帰った。」
「そう。ゆっくり話せなくて残念。」
「お前さ」
妙に言葉が端的で、乱暴な口調なので、私は少し驚く。でも、これが彼の本当の姿なのかもしれない。高木さんへの態度を思い出して、考える。彼は元々短気なところがあるし、私に対しては努めて優しくしてくれているふしがある。
「なんであんな簡単に他の男に触らすの? わかってんの?」
「え?」
「下心、わかってて触らせてんの?」
「ちょっと待って、…何か怒ってるの?」
「聞いてんだよ。」
真っ直ぐ、正面から射抜くような視線。聞くまでもなかった。ものすごく怒っている。