…だけど、どうしても
ぼんやりと目をあけると、とっくに陽は高く上っているようで、目に入った天井がいやに明るかった。
のろのろと顔を横に向けると、紫苑が上半身を壁側にもたせかけて、虚ろな眼差しで宙を見つめていた。
私が目を覚ましたのを感じ取っていたようで、そのままぽつりと呟いた。
「…馬鹿なことをした。」
それからゆっくりとこちらに顔を向けて、聞いた。
「…さわってもいい?」
私はおかしくて、それからなんだか切なくなって、笑った。
「どうしてそんなこと聞くの? 私はあなたのものなのに。」
紫苑は手をのばして、私の額にそっと触れた。昨夜のことが信じられないくらい優しくて、おずおずとした触り方だった。私が気持ち良さそうに目を閉じると、顔にかかって貼り付いていた髪を丁寧に除けてくれた。
「俺自分がこんな独占欲の塊だなんて知らなかったんだ。花乃のやり方を否定したいわけじゃない。だけど、俺以外の男が花乃に触られてるのを見るのは、どうしても耐えられないんだ。…ごめん。」
聞いたことがないくらい、弱々しい声だった。何百回も謝られるより、胸に響いて、痛んだ。傷ついたのは私じゃなくて、紫苑の方だった。
身じろぎしようとすると体中がきしむように痛み、全身がだるくて、動くのが大変だった。紫苑がすぐに気づいて、支えてくれる。上体を起こすと顔が近くなった。彼の顔を両手で挟んだ。
「一睡もしてないの? 酷い顔。」