…だけど、どうしても
「でもさ、セレブのクリスマスってなんか大変そうだよね。花乃も今までサークルの方も、ゼミのほうのパーティに顔出してくれたことないじゃない? 毎年どうしてるの?」
美砂がふとトーンを落としてそう言った。
「うーん、昔はうちでパーティを開いてたこともあったけど、最近は父の取引先のパーティとか、ご贔屓にして頂いてる方のところに呼ばれたりとか…」
ふと腕時計を見ると、美砂の待ち合わせ時間を過ぎている。
「佐貫くん、遅いね?」
「あいつ遅刻魔だから。もう知らない!」
と言いながらもちゃんと待つ美砂は可愛いし、なんだかんだ言いながら佐貫くんとうまくいっているんだろうと思う。
私がくすくす笑っていると、美砂はむくれていたが、急に私の後ろの一点に目を止めた。
「王子が先に来ちゃった。」
「えっ?」
振り返ると、濃いグレーのロングコートを翻し、学生ばかりのカフェに明らかに異質な風を流し入れて、紫苑が入ってきたところだった。
「あーあ、あんな彼氏を持つってどんな感じ?」
「どんなって…」
夢を見るような顔をして紫苑を見ている美砂に苦笑していると、肩に手が置かれ、聞き慣れた低い声がした。
「悪い、珍しく早く会議が終わって。邪魔したかな? 美砂ちゃん、久しぶりだね。」
外の冷たい空気を連れてきた紫苑は、そう言って美砂にも笑いかけた。
「いいんですよー、座ってください!」
「そう? じゃあ、コーヒー」
優雅な身のこなしでコートを脱ぎ、私の隣に腰かけながら、目の色を変えて注文を取りに来た店員の女の子にそう言った。