…だけど、どうしても

今日は黒いカシミアのタートルネックのセーターを着ていて、少し伸びた黒髪と合わさってとてもシックな装いだ。相変わらず近寄りがたい雰囲気を纏っているけれど、笑顔が驚くほど柔らかくて、私は思わずドキッとしてしまう。この人はこんなふうに笑うひとだったかしら?

「何、課題? あーフランス語か。英語だったら教えられたのに。」

美砂の前なのにためらいもなく私の髪を一房するりと掴んで滑らせながら、私達が喋り込んでそっちのけにしていたテーブルの上のノートを紫苑がのぞき込んだ。

「英語の課題もあるの。」

「後で見てやるよ。」

「ありがとう。紫苑、佐貫くんに会えるかも。」

「誰?」

「美砂の彼氏。」

「あー、クリスマスケーキに元カノが好きで美砂ちゃんが嫌いなイチゴのケーキ買ってきちゃった…」

「ヤダ、そんな話するの?! 花乃!」

「するよ、美砂ちゃんの話はよくしてる。お好み焼きにマヨネーズかけるとキレる彼氏だろ。」

「ヤダー嬉しいー、でもヤダー複雑! ちなみに紫苑さんはお好み焼きにマヨネーズかけます?」

「当然。」

「ですよね〜! ていうか、紫苑さんでもお好み焼き食べたりするんですか?」

「食べるよ。俺を何だと思ってんの?」

「えー、王子。」

「ごめん美砂ちゃん、言っていい? バカなの?」

美砂は大喜びで手を叩いて爆笑している。
紫苑はこうして私の友達とも顔を合わせると会話を弾ませてくれる。

「王子、クリスマスはやっぱり花乃に真っ赤なバラの花束を贈って、ヘリコプターで夜景を見せてあげたんですか?」

「は? 一周回って斬新だな。そういうのが良かったの? 花乃。言ってくれないと。」

「お気持ちだけ、どうもありがとう。」

私が苦笑しているとまた美砂がケタケタと笑う。

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