…だけど、どうしても
美砂と佐貫くんの待ち合わせは15時のはずで、私と紫苑の待ち合わせは15時半だったけれど、16時を過ぎても佐貫くんは現れなかった。
ぷりぷり怒りながら今度こそ別れると息巻いていている美砂を、私はなだめながら、紫苑はからかいながら過ごしていたけれど、遂に紫苑が伝票を掴みながら、そろそろ、と言った。
「そうね、ごめんね美砂。」
「いいの、行って行って! 健闘を祈ってるね! 花乃ならなんも心配ないけどさ。」
私が鞄に荷物を詰めて立ち上がると、紫苑が私のコートをいつの間にか広げていて、着せてくれる。それを美砂にうっとりと眺められていて気恥ずかしい。と、思っていたら、カフェのドアが乱暴に開いて慌ただしい足音が真っすぐにこちらに向かってきた。
「ごめん、ごめん美砂、ほんとごめん!」
私にも紫苑にも目をくれず、外は寒いはずなのに汗だくになって美砂のところに飛んできた佐貫くんを見て、思わず私と紫苑は顔を見合わせて笑った。
「ラインしたんですけどー? 流行りの未読無視? そーですかそーですか。」
「教授に捕まってたんだ、ラインするより走ったほうが早いと思って…」
「私が帰ってたらどーするつもりだったんですかーあ。」
「いや、それは東倉さんが一緒だから大丈夫だと…」
息せきってそこまで言って、初めて私達の存在に気がつき、はたと私を見て、隣の紫苑を見て、目を丸くした。
「あれ、えっと…」
「会えて良かった、佐貫くん。」
紫苑がにやりと笑ってそう言って、佐貫くんの肩に手をかけて、
「美砂ちゃんに今夜、レストランでサプライズのデザートを頼んであるならチーズケーキにチェンジだ。今度こそ間違えるなよ。」
耳元にそう囁いて、レジの方に歩いていってしまった。