…だけど、どうしても
「え、え? 何、あの迫力のイケメン? あ、噂の東倉さんの彼氏?」
「そーよ、あんたとは雲泥の差よ。」
「比べんなよ、次元がちげーよ。」
「男なら高みを目指しなさいよ!」
言い合っているのかじゃれ合っているのか、もう喧嘩の心配はなさそうだわ、と安心して、私は二人に別れを告げた。
「じゃあ、またね。よいお年を。」
「うん、またね花乃! よいお年を! 大体あんたはね…」
お会計を済ませた紫苑がドアの前で待っていて、私が近づくと開けてくれる。背後でまだ言い争っている楽しげな声を聞きながら、カフェを出て、私達は歩きだした。
「雛鳥が巣でピーピー鳴いてるみたいだな。」
紫苑がそんなことを言うから私は笑ってしまう。そんな私を見て、紫苑が目を細めて笑い、私の腰を引き寄せると額にキスをした。
「美砂ちゃんのおかげかな。リラックスしてる。」
「そうね。でもずっと楽しみだったのも本当。紫苑のご家族に会えること。」
「弟は旅行でいないけどな。家族の都合なんか無視だ、あいつは。」
「それはきっと紫苑を見て育ったからよ。」
「…高木に変なこと吹き込まれたろ。」
苦い顔をする紫苑を見て、ふふっと笑う。
「それに弟さんには来年きっと大学で会えるし。」
「妬けるよな、それ。」
何を言ってるのかしら。そう思っても、思わず頬が緩んでしまう。