…だけど、どうしても
年は明けて、新年、時節柄私はパーティーで忙しかった。
紫苑もさすがに仕事が忙しそうで、私がいるパーティーに全て顔を出すというわけにはいかないようだった。
「明けましておめでとうございます。」
この二週間ほどで、この台詞を一体何回言っただろうと思いながら、私は今日もドレスに身を包み、グラスを傾け、微笑んで繰り返す。
「明けましておめでとう。」
あちこちで挨拶が交わされている。
声をいちいち確認したりはしていなかった。今日は年配の男性が多い会だった。それは何も珍しい声ではなかったのだ。
私は背後からのその声に笑顔を貼り付けたまま振り返って、絶句した。
舐め回すような視線、脂切った笑顔。
それはよく知った顔だった。
「どう、して…」
心臓が異常な早さで鼓動を打ち鳴し始める。
全身から汗が吹き出る。
集中して。
頭の中で一番冷静な私を引きずり出して、私は私に言い聞かせる。
大丈夫、脚に力を入れて。立ち続けて。震えないで。
「やあ、相変わらず美人だねえ、花乃ちゃん。」
…声を出して。震えないで!
「…ご無沙汰しております。飯沼さん。」
だめ。足を踏ん張っても、手が震える。収まって。抑えるのよ。
「…ご病気、と、伺っていましたが…」
「よそよそしいなあ。仲良くしようよ。」
しわの刻まれた手が伸びてきて私の腰に触れ、撫でる。
触らせんなよ。
紫苑の声が耳に蘇る。
そういえば、今日、紫苑は…
「あの…」
どんなに気丈でいようもしても、目の前がぐにゃぐにゃと歪み始めて動悸が止まらない。
「私、少しお手洗いに…」