…だけど、どうしても
4.
その日から一ヶ月近く、花乃に会うことはなかった。
連絡をしても、体調が戻らない、と申し訳なさそうに約束を断られ、電話でも長く話すことはなかった。
声は本当にか細くて嘘ではないだろうと思える。だが、あの明らかに様子がおかしかった後だから、どうしても胸騒ぎを無視することはできなかった。
何よりも、会いたくて我慢の限界が近かった。
もう東倉の家まで押しかけ、あの老執事に様子を聞くだけでもして、ちらりと顔を見るくらいは許されるのではないかと、今夜あたり実行に移そうかと思っていた矢先だった。
「東倉花乃様と言う方がお見えなっておられますが…」
内線でそう受付から言われたのは、まもなく昼休憩に入ろうかと言う時間だった。
「通して。」
驚きながらもやっと会えるという喜びで、俺はそう即答した。
控えめに花乃がフロアの入り口に立っていると、社員たちが振り返り、目を見張っている。高木が気づいて電話をしながらも、片手を上げて挨拶した。俺を目で探し、俺が既に向かっていることを確認すると、電話に意識を戻した。
「ごめんなさい、お仕事中に…ランチタイムかな、と思ったんだけど…」
「いや、そろそろだから問題ないよ。」
久しぶりに会えたことに笑みが溢れることを抑えられない。花乃も俺を見つめて微笑んだ。
「…痩せたな。」
「そう?」
顔色は悪くなかったが、元々華奢なのに、更に痩せて少し痛々しささえ覚えるほどだ。と思った時、ふと直感的に違和感を覚え、花乃の片手を掴んで持ち上げた。そのままセーターの袖を捲る。
目を丸くして身をすくませている花乃を睨んで、ため息をついた。
「…点滴の跡。」
「…あ…」
花乃が目を伏せる。本当によっぽど体調が悪かったのだ。
「あんま、心配かけんな。」
「…ごめんなさい。…あのね」
何か吹っ切れたような声音で花乃が言った。痩せようが、何だろうが相変わらず綺麗な笑顔だった。
「話がしたくて来たの。すぐに終わるから。」