…だけど、どうしても
「っ、ふっ…ざ、けんな!!」
急に呪縛から解き放たれたように、身体がバネのごとく跳ね上がり、花乃が引き開けた応接室のドアを、その身体の上から覆いかぶさって押し閉めた。
バタン、と激しい音がした。間に合った。俺はドアについた腕の中に花乃を閉じ込めて、息をついた。
「何なんだ、一体…そんなんで、俺が納得するとでも思ったのかよ。」
怒鳴りつけられたからか、出口を封じられたからか、花乃が動揺して瞳を揺らしている。俺を見ようとしない。
「こんな…会社にまで来て、わざわざ無い時間、狙って。一方的に…」
「…紫苑、お願いだから…」
「別れないからな。やっと手に入れたんだ。俺はお前を手放したりしない。」
花乃の取り繕った微笑みがみるみる崩れて、泣き出しそうになっている。
そうだ。花乃はいつも頑なに仮面を被っていた。今までは無理矢理それを剥いで、立ち去られることが怖かった。だけど今はもう…花乃を失いかけている今はもう、手段を選んではいられない。
「説明しろよ。幸せなら続ければいいじゃないか。今まで夢みたいだったって? 夢なんか見た覚えないね。俺はいつだって現実でお前と居た。勝手に夢にするな!」
「やっ…」
花乃も追い詰められている。身を捩って、俺の腕の中から抜け出そうともがいている。華奢な花乃が男の俺にかなうはずがないのに。両腕を捉え、ドアに押しつけた。
「やだ、離して…」
「離さない。」
「離して!!」
遂に花乃が絶叫した。
構うものか。俺は花乃を睨みつけたまま、一層手に力を込めた。