…だけど、どうしても
花乃は諦めず暴れようとする。そんなに痩せた身体で、そんなにまでして、俺から逃げたいのか。
「どうしても別れたいっていうなら、俺を納得させろよ。じゃなきゃ絶対逃さないからな。」
「っ…、わ、たし、はっ…」
花乃は顔を上げた。初めて俺をまともに見た。
泣いていた。
「私は、飯沼の、愛人だったの…!!」
愛、人…
飯沼?
思いもよらない告白に、思わず手の力が抜け、するりと花乃の両手が落ちた。
「どういう…」
「3年前…うちの会社、大きな取引がダメになって本当にもう、倒産ってところまで来てたの。そこに、飯沼が、個人的に出資して助けてくれるって話を持ってきて。条件が私を愛人にすることだった。」
「そんな、馬鹿な話…」
「父は断ったわ。私も初めはそんな話、知らなかった。だけど…」
ある日、社長には知らせず、幹部の数人が花乃に頭を下げたのだと言う。その時初めて花乃は飯沼の条件を知った。そして了承した。
後からそれを知った社長が、出資を一時的なものとし、愛人期間を半年に止めて欲しいと飯沼に交渉した。
「迷いなんかなかったの。こういう家に生まれた以上、そういうことはあるかもしれないと思っていたし、社員の皆が路頭に迷わずに済むなら私の身体なんか、安いものだって思った。まさか、自分が…」
そこで声を詰まらせた。
「自分がこの先、誰かを愛すなんてこと、無いと思ってたから…」
それを聞くなり、俺は花乃の身体を強く抱き締めた。
花乃は首を振って離れようとする。