…だけど、どうしても
考えうる中で一番最悪な結末になってしまった。
だけど紫苑を責めることなんてできるわけない。
だって、紫苑自身が一番悔しそうな顔をしていた。歯ぎしりが聞こえてきそうなほど。
「帰れ。」
普通の人だったら竦み上がってしまう、父の低い声。だけど紫苑は微動だにしない。
「帰れと言っている!!」
「紫苑、今日は、…ね?」
私がそっと言うと、紫苑は一瞬眼をきつく閉じて睫毛を震わせると、息を吐いた。
「また伺います。」
「二度と来るな。」
紫苑が椅子を引いて立ち上がった。
「見送りなんかしなくていい!!」
紫苑に付き添って部屋を出かける私の背中を父の怒鳴り声が追うけれど、黒田が目配せをして、いいから早く行きなさいと何度か頷いてくれた。
無言のまま足早に玄関を抜け、外に出るなり紫苑は閉じたばかりの扉に背を預けて、ネクタイを緩め、整えた髪を掻き回した。
「…悪い。つい頭に血が上って…最悪だ。」
あまりにも、らしくない、うなだれた姿を可愛く思ってしまって、私はくすっと笑った。
「いいの。紫苑、気が短いから。」
「…仕事だと、ここまで感情的にならないんだ。花乃のことになると、俺本当にただの単細胞だ。ごめん。次こそちゃんとするから。」
「少し日を空けたほうがいいと思うわ。私も説得しておくから。忙しい中来てくれてありがとう。」
「ああ…」
紫苑は乱れて目にかかった黒髪の間から私を見て口の端を少し上げた。
「しかし、花乃の性格は親父さん譲りだったんだな。」
「え? どこが?」
「頑固なところと、限界が来ると色々とぶち撒けるところ。」
「…もしかして気が短いって言ったこと、怒ってる?」
「まさか。」
紫苑が晴れ渡った空を見上げて笑う。
春が近い。庭の桜の木が、蕾をつけ始めて私達を見下ろしていた。