恋した責任、取ってください。
本当はもっと大地さんの内面に踏み込んでいけたらいいのだけれど、実際は怖気づいてしまってこの有り様だ。
少しでも気持ちを軽くしてあげられる方法はないか、どうやったら大地さんに心を開いてもらえるのかと、ぎこちない笑顔で境界線を張られるたび、自分の力のなさに毎度打ちのめされている。
「じゃあ、今日はこんなとこでいい? 次、ソウの番でしょ。あんまり時間かかるとソウに怪しまれちゃうから、俺はそろそろ行くわ。この〝アスリート向け一人男子の超絶簡単フライパンレシピ〟ありがとね。さっそく作ってみるから」
「あ、はい、あとで感想聞かせてください」
「大丈夫。なっちゃんが調べてくれるレシピ、マジで簡単だし超美味いから。身体もいい感じに出来上がってきてるし、風邪なんて引くわけないじゃん」
プリントアウトしたレシピの紙をひらりと振りながら、席を立った大地さんが踵を返して面談ルームを出ていく。
面談ルームといっても、チーム・ブルスタのフロア内に簡易的にスペースを作って机と椅子を置き、観葉植物と衝立で仕切っただけのものだから、別に佐藤さんに怪しまれるほど密な会話ができるわけじゃない。
それに佐藤さんとはもう何もない。
最初はそりゃ、顔を見るたびにお互いに多少ぎくしゃくしてしまったところがないわけではないけれど、今ではもうすっかり普通に話せている。
佐藤さんが私の気持ちを受け入れた上で新たな関係を築こうとしてくれたように、私もそうしているうちに、選手とサポートチームの一員としてとてもいい関係が出来上がったんじゃないかと、そう思っている。
「夏月さん、大地さんの様子、どうですか?」
「……うーん、今のところ、浮上の兆しはあんまり、ですかね。もっと私が踏み込めればいいんですけど、ヘタレすぎちゃって情けない限りです」