恋した責任、取ってください。
本当の本当は、まだ全然、大地さんを諦めきれていない。
だって生まれて初めての恋だ。
今まで生きてきた中で初めて好きになった人だ。
2回振られても、あのとき確かに、ブルスタを通してひとつの家族みたいな関係を築けたらと、ちゃんと失恋したつもりではいても、心の片隅で想ってしまうものは想ってしまう。
どんなに取り繕っても、押し込めようとしても、さっきだって本当は大地さんにご飯を作ってあげたいって、本心は純粋な欲求にとても従順だった。
「ねえ、夏月さん」
「はい?」
佐藤さんに呼ばれ、いつの間にか下を向いてしまっていた顔を上げると、目が合ったとたん、彼はふっと表情を和らげて言う。
「いろいろ悔しいから言ってませんでしたけど、大地さん、夏月さんと俺がどうなってるか、ずーっと気になってるみたいですよ。大地さん、そういうところもしっかりヘタレだから、聞くに聞けないんです。まあ、シーズンが始まっちゃったんで自分のことでいっぱいいっぱいにならざるを得ない状況ではありますけど、ひとつくらい、心配の芽を摘んであげることは、夏月さんにだってできるはずです」
「……え」
「まだ好きなんでしょ? 前だけ見て進んでいく先にも、やっぱり大地さんがいるんでしょ?」
「……」
「俺、知ってるんですよ。俺が好きだった夏月さんは、ここまでお膳立てされて何もできない人じゃない。何もしない人じゃない。葛城さんのことはともかく、大地さんの調子が今一つ乗ってこない原因のひとつに夏月さんが絡んでいるってことは、俺から伝えておきましたから。ま、そういうことです。あとは夏月さんに任せますね」
「……、……」
どういう返事をしたらいいのかわからず押し黙ってしまうと、佐藤さんは私の手元にあるバインダーとペンを引き寄せ、スラスラと問診票に今日の体調を回答していく。