恋した責任、取ってください。
 
20項目ほどある質問をあっという間に書き終わると、バインダーを返しがてら、さっき大地さんにも渡した〝アスリート向け一人男子の超絶簡単フライパンレシピ〟の紙を手に取り、席を立つ。

そして。


「俺、これから大地さんが浮上してくるかどうかは夏月さんにかかってると思うんですよ。期待して待ってるんで、あのヘタレのこと、よろしくお願いしますね」


そう言い残し、不敵な笑みを携えながら面談ルームに背を向け、練習に戻っていった。

ぽつんとひとり取り残された私は、脅し文句にも聞こえたそれにしばらくその場を動けず、どうしたものかと頭を抱えることになった。

いろいろ言われたけれど、要はそれは、全部佐藤さんからの励ましで。

きっとそれは、佐藤さんにしかできない背中の押し方なんだと思う。

でも。


「……怖いよ」


もし全部が佐藤さんが言った通りだったとして、私が大地さんの調子が今一つ上がってこない原因のひとつであっても、それを伝える勇気が今の私には……ない。

もう2回振られているんだから3回目振られたって2回も3回も同じようなもの、なんて思えないし、気持ちの作り方もわからない。

高浜さんには〝数打ちゃ当たる〟なんて言われたこともあったにはあったし、励ましてももらったけれど、どうしたって怖いものは怖い。


大地さんが浮上するためならなんだってしたいという気持ちはある。

あるけど。


「無茶言わないでくださいよ、佐藤さん……」


そうやって、だいぶ遅い反論をぽつりとこぼすしか、今の私にはできることはなく。

結局、何もできずに、何もしないでいるまま3日が過ぎ、その週の週末、葛城さん率いるファイヤー・ホーネットとの初戦、2連戦を迎えることになった。
 
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