恋した責任、取ってください。
弥生がにっこり笑って視線だけで示す先――。
観戦客の頭よりひとつもふたつも抜きん出ているその人の姿を目が捕らえた瞬間。
「傷だらけの王子様が助けを求めに来たんじゃない?」
弥生のその、本気半分、冗談半分な台詞を最後まで耳に入れる間もなく、私の足は条件反射的に人混みを掻き分けながら真っすぐそちらへ向かっていた。
……大地さんってば、いったいどうしたっていうんだろう。
選手たちは今、控え室で帰る準備をしているはずで、というか、本来なら選手たちはスタッフ通用口を使って会場に出入りするので、わざわざ観戦客用の出入り口に来るはずもない。
何かすぐに伝えなければならない用事でもあるのかな。
そんなことを思いながら、ユニホームにチームジャージを羽織ったままの大地さんを視界に捉えたまま、足を急がせる。
その間、大地さんに気づいたファンの人たちが「次は勝ってください」とか「応援してます」なんて言いながら握手を求める姿が目に映る。
それに快く応じる彼は、でもどこか張り付けた笑顔で、胸の奥がチクリと痛んだ。
「……ど、どうしたんですか、こんなところに。ていうか、顔……」
そうして、無理に人の間を通ってきたので周囲に煙たい目で見られつつ、なんとか大地さんの前まで来ると、目に飛び込んできたのは、できたばかりの傷あとだった。
絆創膏で隠してはあるけど、左の口元に滲んだ血が痛々しい。
「……あー、うん。試合が終わって控え室に戻るなり、ソウと俺のぶんだって言って心に殴られた。試合中からずっと俺にイライラしてたし、チームを立て直すためにも、キャプテンの心はみんなの前で俺を殴る必要があったんだ」
「高浜さんが……? そ、そうなんですね……」