恋した責任、取ってください。
その姿をぼうっと目で追っていると、内緒話をするときのように大地さんがすっと顔を近づけてきた。
シャンプーと汗の匂いが混じった香りが鼻腔をくすぐり、思いがけない距離の近さに、まだ大地さんを全然諦めきれていない私の心臓はドキンと跳ねる。
「その様子だと、あれが葛城だって知ってるっぽいね。さしずめソウからでも聞いたんでしょ? あ、でも、ホームページとか見れば顔と名前もわかるか。まあとにかく、あれが怖くて怖くてまともにタイアップできない相手。――あれが、3年前、俺が殺しかけた相手だよ」
けれど、大地さんの匂いと距離の近さに跳ねた心臓は、その瞬間、まったく違う意味で跳ねることになった。
殺しかけた、なんていう耳を疑うような言葉に体の内側から熱が急速に奪われていくようで、まともに声が出せない。
「……、……え?」
やっとのことで口にできたのは、たったそれだけだった。
まず自分の耳を疑って、大地さんの言葉を疑って。
そんなはずない、大地さんがそう思っているだけで本当は全然大したことなんかじゃない、と自分の心に言い聞かせて。
でも、大地さんの普段どおりの話し方が、かえって真実を語っているように思えて。
「なっちゃんには話さなきゃいけないって、ずっと前から思ってたはずなんだけどな。……今頃になっちゃったけど、ちゃんと聞いてほしいんだ。わがまま言ってごめんだけど、これから時間作ってもらえる?」
「大地さん……」
「あ、久しぶりに名前で呼んでくれた。なっちゃんに名前で呼んでもらえないと、やっぱり元気出ないよね。……って、名字で呼ばせる原因を作った張本人の俺が言っていいことじゃないかったんだった、デリカシーなくてほんとごめん」
大地さんのなんとも形容しがたい微苦笑を目にした私は、胸が苦しくなりながら「何時にどこに行けばいいですか?」と。
ちょうど通話を終えて戻ってきた葛城さんが控え室に戻っていく姿を目で追いながら、半ば条件反射的にそう尋ねていた。