恋した責任、取ってください。
 
なんだかうまく誘導されている気がしないでもないけれど、大地さんの言うことも一理あるので、すごく歓迎してもらえるなら行かないわけにはいかない。

こういうのはやっぱり、ふたりになれるところがいい。

店だと落ち着かないし、九兵衛の大将さんなど、いくら大地さんと縁深い人がいるところといっても恥ずかしいし、かといってこの寒空の下、外で返事をしてもらうのは大地さんに申し訳ないし。

……いや、白状すると、私が一度行ってみたかったし。


「よし、行こう」

「はい」


そうして、こくりと頷く私に穏やかな笑みを浮かべて歩きはじめた大地さんの隣を、私もちょこちょことついていった。





それから20分弱。

わりと近いという言葉のとおり、そんなに時間もかからず着いたのは、大きな幹線道路を一本内側に入ったところに建つ、綺麗な外壁のマンションだった。

「ここ」と言葉少なに言う大地さんに続いてエントランスを抜け、ちょうど一階で停まっていたエレベーターに乗り込むと、大地さんが6階の階数ボタンを押して壁に寄りかかった。

そのまま両者無言で目的の階で降り、コートのポケットから鍵を取り出しながら廊下を進む大地さんの後ろをついていく。


この20分あまり、会話らしい会話はほとんどなかった。

話題がないわけでも、まして気まずいわけでもなかったけれど、星を見上げたり、反対に地面に目を落としたりしている大地さんの、なんとなくいつもと違う様子に、なかなか声がかけられなくて。

びっくりするくらい会話が弾まなかったというのが、ここまでのあらましだ。
 
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