恋した責任、取ってください。
 
思いがけない言葉に「もんちゃんがいるので大丈夫ですよ、ランニングの邪魔した上に送ってもらうなんて申し訳なさすぎます!」と何度かお断りしたものの、しかし佐藤さんは言う。


「モンと走ってる場合じゃなかったんです。夜道を女の子一人で歩かせるなんてデリカシーなさすぎ。だからお詫びにお願いします」

「え、でも……」

「俺の気が済まないんで」


そんなふうに言われたら、送ってもらわないほうが逆に失礼になるってパターン? これ。

免疫がないだけで、学生の頃も仕事上でも、今までだってそれなりに男の人と話をする機会はあったわけだけど、こういう展開は初めてだから、何が正解なのかちっとも分からない。

もんちゃんと佐藤さんの顔を順番に見比べてみても答えなんて書いているはずもなく、しばらく考えて、おずおずと口を開く。


「じゃあ……お願いします」

「はい」


そうしてマンションの前まで送り届けてもらう展開になったものの、こういうときにどんな会話をしたらいいかも私には分からない。

それもあって最初はお断りしたわけだけど、もんちゃんは佐藤さんと一緒ですごくご機嫌なので、これだけでも良かったかも、と思う。

とはいえ、慣れない“送ってもらう”というシチュエーションに若干胃の辺りに違和感が……。

私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる佐藤さんの気配にやけに緊張してしまって、自分の心臓の音がいつもより大きく聞こえてしまう。


基本、佐藤さんはクールだ。

2年前のもんちゃんのリードに関してと、名前のベガ推しついては、よく喋ったり涙を流して笑ったりと感情表現が豊かではあったけど、今は全然喋らなくて、私的にけっこう気まずい。

こういうときこそプロのバスケ選手である佐藤さんにバスケのことを色々教えてもらえるチャンスだっていうのに、私ってばダメ人間……。

佐藤さんなら、大地さんの引退の件も知っているかもしれないのに、緊張しすぎて話しかけるタイミングが全然掴めないんだけれども。
 
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