恋した責任、取ってください。
「大地さん、いつもふわっとしてるから、恵麻さんは結婚してもなかなか落ち着けないみたいですね。大地さんが引退するって騒ぎはじめてからは特に顔が怖くなっちゃいました」
続けてそう言い、顔のことは内緒ですと言うように口元に人差し指を縦に当てて少し笑った。
き、姉弟か、なんだびっくりしたー……。
つき合っているんです、なんて言われたら胃が即爆発しちゃうところだった、私の初恋、たったの1日でジ・エンドの結末だったよ。
「恵麻さんと大地さん、姉弟だったんですね」
「長身なところだけ一緒な感じです」
「ですね」
安心したら胃の痛みが嘘のように引いていく。
大概ゲンキンだけど、そうか姉弟かと納得したら自然と顔の筋肉も緩んできて、自分の初恋にまだチャンスがあることが嬉しくなった。
……何もしてないけど。が、頑張ろう。
「あの、それで、大地さんはなんで引退なんてしようとしてるんですか? バスケのこと全然分からないんですけど、センターって体を張るポジションですよね。どこか怪我でも?」
急き込んで訊ねると、佐藤さんは視線をさ迷わせ、それから小さく首を振ると、さっきまでとは別人のように目を鋭くさせて言う。
「大地さん、ヘタレなんです。ライバルチームに3年ぶりに復帰する選手がいて、その人と戦いたくないから逃げてるだけなんですよ」
「逃げてる……?」
「ええ。春先に復帰の一報が入った途端、急にあたふたしだして。復帰したからってすぐに試合ってわけじゃないのに、あからさまに狼狽えてて。デカいのにヘタレもいいとこです」
「じゃあ、怪我じゃないんですね」
引退しようとしている内容も気になったけど、怪我が原因じゃなかったというだけで、なんだか救われた気持ちになってくる。
体育館に一番乗りで来ているくらいバスケが好きなのに、どうしても引退しなきゃならない理由が怪我だったなら、仕方のないことかもしれないけど救われないのは大地さんだもの。