恋した責任、取ってください。
らしい、というのは、辞令を受けて事前に挨拶に行った際、誰一人としてチーム・ブルスタの人間がフロアにいなかったからだ。
チーム総出で対処しなければならないことが起こったらしく、生憎全員が出払っていて、その後私も自分の仕事の引継ぎやら何やらで改めて挨拶に行く機会を逃し、今日に至っていた。
詳しい仕事の内容も聞けずじまいだったので、とりあえずバスケットに関する知識を得なければと思った私は、何冊か本を買い、仕事の合間を縫って教本と睨めっこをしている。
バスケはおろか、運動すらまともにできないかなりの運動音痴の私は、中高と部活はずっと文化部だったし、大学でもサークルには入らずバイトに明け暮れる生活を送っていた。
なので、知識が全くない。
ブルスタのサポートをするのがこれからの私の仕事になるのにマズい!と一念発起した私は、ルールやポジションを頭に叩き込んでいるのだ。
「えーっと、3歩歩くとパドリング……」
ぶつぶつ呟きながら廊下を進む。
統括マネージメント部は本社ビルの15階だ。
フロア全体をこの部で使っていて、細かく分かれたいくつもの部屋の中では、社内の様々な部署と連携している各チームが『チーム・商品企画』や『チーム・研究サポート』などのプレートを下げ、それぞれの業務を行っている。
チーム・ブルスタは、フロアの中央にあるエレベーターを降りて左に突き進んだ左最奥。
左、左と進めば着くので、覚えやすい。
すると。
「何を漕ぐつもりなの?」
「あでっ」
声が降ってきたのと同時に何かにぶつかり、しこたまおでこを打った私は、壁のような固さだったあまりに可愛くない声が出てしまった。
真っ直ぐ歩いていたつもりだったけど、いつの間にか壁に向かって歩いていたのかもしれない。
ずれたメガネを掛け直して顔を上げる。
と、そこにあったのは……。