恋した責任、取ってください。
食い気味で声を被せた私に大地さんは困ったように少し笑って「うん」と言って。
「ソウから聞いたんだけど、引退しようとしてる理由が怪我じゃないって分かって安心してくれたんだって? ありがたい話だなと思って、それで現役続けようって腹が決まったようなもんだったんだよ。怪我じゃないのに引退は、やっぱりバスケに失礼だと思って」
そう言って、照れくさそうに顔を俯かせる。
ソウというのは、佐藤さんの愛称だ。
大地さんの引退を一緒に阻止しようと話している仲の佐藤さんとは、もんちゃんの散歩のときに作戦会議なるものをしているけど、これといって特に進展はなかっただけに、おー!と大声で叫んでガッツポーズをしたいくらいだ。
よかった、あのメンバーでまだバスケができる。
「だから、ありがとうね」
「いえ、私は……」
ニマニマと締まりなく緩む顔をどうしても引き締めきれないまま、俯いて答える。
人づてではあるけど、他ならない大地さんの心を動かせたことが嘘のようで、でも現実で、どうにもフワフワした気分になってしまうのだ。
「チームのヤツらにも心配と迷惑かけたけど、もしかしたら現役続行に一番ホッとしてるのは俺自身かもしれない。まだ続けて欲しいって思ってくれる人がいるって力出るよね!」
「出ますね!」
クルクルと回り続けていたボールをぴたりと止め、その代わりにグッと親指を立てた大地さんの真似をして、私も親指を立てる。
運動音痴の私では残念ながら大地さんの気持ちの半分も汲み取ることはできないだろうけど、察することはきっとできるはずだから。
うん、嬉しい。
大地さんはけして表に出さないけど、引退を考えるほどにライバルチームに復帰するその選手と何かあることは佐藤さんから聞いて知っているから、現役を続けることは意味が大きい。
本当によかった。