恋した責任、取ってください。
 
大地さんが普段から惜しげもなく垂れ流している、彼独特の人を無条件に安心させてくれる穏やかな雰囲気に包まれ、厚くて大きな手で“大丈夫だから”と頭をポンポンされても、気持ちが塞いでいるから素直に受け止めるのが難しい。

自分の手元に目を落とすと、ケーキの箱が途端に無意味なもののように見えてきてしまい、そんな卑屈さから「でも……」と大地さんの優しさを突っぱねる言葉が出てしまった。

お酒の失態って、どうやって立ち直ったらいいんだろう、どれくらいで立ち直れるんだろう。


「それより、こっちこそ気を使わせて悪いね。そこのケーキみんな大好きだから安心して」


しかし大地さんは、私の小さな呟きなんて聞こえていなかったかのようにそう言うと、私の手からケーキの箱を2つとも奪って、たった今入ってきたばかりの体育館に背を向ける。

すると、すぐに私の横を佐藤さんが通り過ぎ、数歩行ったところで足を止めると顔だけをこちらに振り向いて事もなげに言う。


「夏月さんも行きますよ」

「え?」

「そろそろみんな来る時間だから、練習の前にケーキで腹ごしらえするつもりみたいです。大地さんの頭の上に花が咲いてるの見えますか? あれ、相当嬉しいんじゃないですかね」

「ケーキが、ですか?」

「………………たぶん」


ん? なんだか妙な間が。

とにかく。

体育館は飲食禁止だし、佐藤さんに「夏月さんも」と言われれば付いていかないわけにもいかないので、徐々に遠ざかっていく大地さんの後ろ姿を、私たちも追うことにした。

残念ながら私には、佐藤さんの言う頭の上の花は目を凝らしても見えなかったけど、ケーキで喜んでもらえるなら、今回のような理由がなくてもちょくちょく差し入れしてしまいそうだ。

……喜ぶ顔が見たくて。
 
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