恋した責任、取ってください。
練習後。
皆さんがそれぞれに後片付けをしている中、私も御用聞きらしく「おーい!」と呼ばれてモップがけを手伝っていると、佐藤さんがツカツカと歩み寄ってきて、一言私に告げた。
「練習前のあれ、夏月さんに怒ってたんじゃないです。誤解を招く言い方をしてすみません、それだけ言っておきたかったんです」
「いえ、お気になさらず……!」
佐藤さんは律儀にも、ずっとそのことを気にしていたらしく、顔の前でせわしなく手をバタバタさせる私を見下ろしてホッとした顔をする。
でも、私の中ではもう、練習時間を割かないように周りに配慮しようと前向きに自己完結させていたことだったから、改まって言われると、ちょっと困ってしまうのが本音だ。
わざわざ言いに来てくれたのは嬉しいけど、今日の練習中、私なんかのために気を取られて佐藤さんがしっかり集中できていない場面があったのなら、そっちのほうが申し訳ない。
と。
「あと、お酒の恥はかき捨てるのが一番です。実はすり寄って甘えながらキスしようとするらしいんです、俺。酔ったらすぐ寝ちゃうだけの夏月さんは俺に比べたらずっとタチがいいんですよ。だからもう気にしないでください」
「……え」
それだけ言うと、キスという単語にピシッと固まる私に背を向けて佐藤さんは去っていく。
名前に“爽”という漢字が入っているだけに、佐藤さんは爽やかに、また一つ自分の恥をカミングアウトしていったわけだけど、その重大さに果たして彼は気づいているのだろうか。
すごいこと言ったよ!? 可愛くすり寄って甘える上にキスまでしようするなんて、いくら私に知られて恥ずかしいことは一つもないと励ましてくれたからって、爆弾発言すぎるんじゃ……。
佐藤さん、身を削りすぎです。