恋した責任、取ってください。
 
それをおずおずと受け取りながら、大地さんは悪くない大地さんは悪くないと呪文のように心で呟き、なんとか涙を目の奥に追いやる。

大地さんは善意から申し出てくれたのだ。

棚ボタ的に大地さんの番号をゲットできたんだからラッキーだったじゃないのさ、私。


「ふはっ!」


すると、なぜか突然隣から笑い声が聞こえた。

どうしたのかと思えば。


「【natsuki.amasawa.0802】って。アドレスがシンプルすぎて逆に新鮮。なっちゃんの誕生日は8月2日か、みんなを誘って祝わないとね」


そう言って、大地さんが笑った。

携帯電話が100%のシェアを誇っていた時代から一度も変えたことのない、つまらないアドレスがかえって新鮮だったみたいだけど、私は逆に、その無邪気すぎる顔に胸がギシリと軋む。

……祝ってほしいのは大地さんだけですよ。

切ない気持ちを押し殺して笑い返すことしかできない自分が情けなくてたまらないけど、無理やりにでも口角を持ち上げ笑った顔を作ると、大地さんは満足げに頷いてベンチを立った。

そろそろ休憩は終わりらしい。


「誕生日プレゼント、楽しみにしててね。て言っても大した物は用意できないかもしれないけど、きっと飲み会になるだろうから、そのときは俺に出させて。なっちゃんの誕生日だって知ったら、アイツら喜んで集まってくるよ」

「--らないですよ」

「ん?」

「……そんなの、いらないですよ」


でも、なんだかもう、限界かもしれなかった。

色々ありすぎて完全にキャパオーバーだ。

私を誰かに重ねているようなことを言ったり、恵麻さんに飲みに誘われたら佐藤さんを呼んでと突き放してみたり、かと思えば今みたいに優しくしたり、もうワケが分からない。

いや、突き放されたように感じたのはあくまで私の感覚であって、大地さんは善意からあんなふうに言ったに違いないんだけど、でも……。
 
< 86 / 217 >

この作品をシェア

pagetop