恋した責任、取ってください。
ふと思ったのだ。
もしかして大地さんは、私の目を自分以外に向けさせようとしているんじゃないか、自分の存在を薄めるために皆の中に紛れ込もうとしているんじゃないか……わざと恋愛対象から外れようとしているんじゃないかって。
私の思い込みかもしれない。
取り越し苦労だったらいいなと思う。
でも、妹感覚のままでいたくない。
このまま私のことを見てくれないのは嫌だ。
私もベンチを立ち、驚いた表情をして固まっている大地さんを覚悟を持って見上げる。
今気持ちを伝えておかないとこの先もずっと言えないような……ううん、言わせてもらえないような気がして、立ち上がった拍子にドサッと地面に落ちたバッグを気にも留めずに口を開く。
「……誕生日プレゼントには大地さんが欲しいです。私の全部、もらってほしいです」
「なっちゃん……?」
「初めてなんです、人を好きになったの。好きなものとか嫌いなものとか、どんな恋をしてきたのかとか、全部知りたいって思ったの、大地さんが初めてなんです。だから私の--」
「なっちゃん、聞かなかったことにしてあげるから、なっちゃんも忘れて。なっちゃんだけには、そういう目で見られたくない」
けれど、幕引きはあっけなかった。
いつの間にか胸の前できつく握りしめていた手からするするとスマホが滑り落ちて、ガコンという無機質な音を立てて地面に転がる。
--だから私のことを見てください。
最後まで言わせてさえもらえなかった……。
「そう……でしたか」
「うん、ごめん。でも、ありがとう」
そう言って大地さんが笑うから、私も笑わないといけない気がして顔の筋肉を必死に動かす。
なんとか笑顔を作ることに成功すると、大地さんは律儀にも落ちたバッグから飛び出した中身を拾うのを手伝ってくれて、きっぱりとフラれてもなお、私の胸は甘く疼いてしまった。