パラレル
意外
田舎の大学に入学して三年になる。入学して半年は電車で二時間かけて実家から通学していたが、電車内に漂う不特定多数の人間の汗や呼吸によって作らた、湿っぽく澱んだ空気の臭い、座るには角度のつきすぎた劣悪なシートの座り心地、電車の外にいる人間の文句しかしない、煩わしい他人の会話に嫌気がさして、夏休みを期に大学からほど近いアパートにすむことにした。
電車通学が苦痛だったのは事実だが、本当は独り暮らしがしたかったからだ。最後の学生生活、自分の時間を増やし、もっと遊びたいという単純な願望が大きな理由だ。親はわざわざ金も手間もかかるのにと、小言をいったが、自立させ、自分で生活させるのもいい勉強になると考えたらしく、最後は積極的に部屋を選び、大学から近く、家賃も手頃な6畳の1Kを気に入り、そこに住むことになった。
この部屋は一階だが、日当たりも良く、鉄筋コンクリートで作られているので、隣人の騒音も聞こえ難かった。手狭なのも、家賃を考えれば納得がいく。むしろ割安な印象を受けた。他にも色々と物件をみたが、結局はこの部屋を契約することになった。
夏休みの最後に必要な家具や家電を買い揃え、まだ暑さの残る9月から、人生で初めての独り暮らしは始まった。
< 1 / 17 >

この作品をシェア

pagetop