理想の恋人って!?
 私が黙っていると、晃一が続ける。

「小さい頃は〝誠一お兄ちゃん〟って呼んでただろ」
「そうだっけ?」

 私ははぐらかすように言った。〝誠一お兄ちゃん〟をやめて〝誠一さん〟と呼ぶようにしたのは、もちろん自分の意思だけど、そうするようになった理由は晃一には関係のないことだ。

「いつから誠一さんって呼ぶようになったか覚えてる?」

 晃一に訊かれて、私は「さあ」とごまかした。それは晃一にとって重要なことなのだろうか。

「俺は知ってる。俺たちが高校生になったときからだ」

 晃一の答えに、私は小さく息を呑んだ。

「あの頃の私たち……会ってもあまりしゃべらなかったのに……よく覚えてるね」

 つぶやきのような私の問いかけに、晃一は何も答えなかった。運転に集中しているかのように、じっと前を見ている。その沈黙が居心地悪くて、私は思いつくままに口を開く。

「ねえ、美佳と陽太だけど……」
「うん?」
「あの二人、私たちがこうやって……自分を偽ってデートをして恋に落ちるなんて、どうしてそういう発想になったのかな」
「さあな」
「こんなんで恋に落ちるはずなんてないのにね」

 私はわざと軽い調子で言って晃一の横顔を見た。彼は相変わらず無表情で前を見ている。
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