理想の恋人って!?
 そう言った晃一の頬がみるみる赤く染まっていく。

 なんだ、柄にもないことやらされてってことは、本気で「かわいい」って言ってくれたんじゃないんだ。

 晃一のそっけない口調にがっかりしてしまう。

「もう、暑いからエアコン強くするよ」

 私が右手を伸ばしたのと同時に晃一が左手を伸ばしてきて、指先がぶつかった。私はあわてて引っ込め、晃一もハンドルに左手を戻した。

 なんか調子狂う。

 背中や腕にビシッとツッコミを入れるときはぜんぜん気にならないのに、なんで指先がほんの少し揺れただけで気になるんだろう。

 そう考えて、ふと気づく。

 手って最初に相手とつながる部分だからだ。好きになった人同士、大切な人同士が、まず手を握る。

 私の手はまだそういう人の手を握ったことはない。晃一はあるのかな。

 運転席を見ると、晃一の横顔はちょっと眉を寄せて気難しそうにしている。

 うん、あるかもしれないな。こうして見ると結構いい男だし。サッカーの試合で活躍したりすれば、きっと女の子がほっとかないだろう。

 なんだって今、私なんかと偽のデートをしてるんだろう。フリーだとは聞いてるけど、美佳と陽太に言われてこんなデートに付き合うくらいだから、今は好きな人とかいないのかな……?
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