理想の恋人って!?
 そう言われたけど、やっぱり気が引ける。

「ううん、割り勘にしよ。だって、本物のデートじゃないし。奢ってあげるのは本物の彼女ができたときにしなね」

 私の言葉を聞いて晃一が小さくため息をつく。

「スーツを着ろとかこだわりがあるくせに、変なところで気を遣うんだな」
「だって、彼氏でもない人に奢られるのは気が引けるんだもん。だから自分の分は自分で払う」
「わかったよ、明梨がそう言うならそうしよう。それで満足なんだろ」

 最後、晃一はちょっと怒ったように言った。

 やっぱり私の理想を押しつけられるようなこんなデート、晃一だって本当はイヤなんだろう。

 さっさと食べてデートを終わらせよう。

 そう思ったけど、落ち着いたインテリアが上品な雰囲気の店内を見回したら、急に緊張してきた。

 頭の中でマナーを復唱する。

 えっと、ナプキンは端を少し折り返して膝に載せるんだったよね。で、フォークやナイフは端から使う、と。

 晃一も緊張しているようで、ほかのテーブルの明らかに私たちより年上のお客は、穏やかに会話を楽しみながらゆっくり食事をしているのに、私たちのテーブルだけは異様に静かだった。給仕してくれるのも、洗練された立ち居振る舞いのウェイターだ。フレンチレストランではギャルソンというのだろうけど。
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