理想の恋人って!?
 晃一が一切れのピザをつまみ、箱の上を無造作に滑らせた。それを取り上げて、誠一さんがかじりつく。

「うん、確かにおいしい。晃一が独り占めしたくなるのもわかるな」
「独り占めなんて、俺がいかにも食い意地が張ってるみたいじゃないか」
「違うのか?」

 誠一さんに言われて晃一がぶすっとする。

「俺ほど欲求を抑えている男はほかにいないと思うのにな」
「無駄に我慢なんかしないで食べたらいいのに」

 すかさず口を挟んだ私に、晃一が目を見張る。

「だーかーらー、明梨まで俺が飢えているみたいに言うなってば」
「〝欲求を抑えている〟と〝飢えている〟はいったいどう違うんだろうな」
「兄貴までそんなことを言う~」

 誠一さんにからかうように言われて、晃一が頬を膨らませた。いつも余裕ぶった顔の晃一が子どもっぽく見える。こんな表情、初めて見たかも。なんだか新鮮。

 私がまじまじと見ている横で、誠一さんがおかしそうに声を上げて笑った。

「あはは、人間、たまには欲求に正直になることも必要だぞ」

 晃一はむくれているけれど、誠一さんの疲れた顔に笑みが浮かんで私はホッとした。
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