理想の恋人って!?
 私の髪を触っていた誠一さんの手が、後頭部へと移動した。彼が顔を傾け、ビールの匂いがかすかに香る。私の苦手なあの苦い香り。

「私は……努力したんです。叶わない恋を忘れようと……」
「そんな努力、しないでほしかった」

 誠一さんの顔が近づいてきて、私は無理矢理顔を背けた。誠一さんの手が私の頬をなぞる。

「どうして……」
「今なら俺、キミの気持ちに答えてあげられる」
「そんなのひどいです」
「え?」

 誠一さんの手が止まった。私は彼の方を見る。

「私……私なんかじゃ絶対に太刀打ちできない、きれいで女性らしくてステキな人だと思ったから……誠一さんとお似合いだと思ったから、私は諦める努力をしたんです。あなたを想わないようにすること。それがどんなにつらかったか、今の誠一さんならわかってくれますよね!?」

 誠一さんがハッと息を呑んだ。見開かれた目が曇って、伏せられる。

「そうだね……」

 誠一さんの手が頬から離れ、私は座ったまま後ずさった。誠一さんが疲れた笑みを浮かべて、前髪を掻き上げた。

「想わないようにすること、か……」
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