汝は人狼なりや?(※修正中。順を追って公開していきます)
 普段の彼からは想像もできないその気迫さに、見ている僕も、みんなも、思わず生唾を飲み込んだ。

 それを目の当たりにした由良城さんの牙と爪は、野々宮くんのその思いが伝わったのか、見る見るうちに引っ込んでいく。尻尾はだらりと垂れ、耳は怒られた子犬のように垂れ下がった。


「さと……し……」


 震える声で、彼の名前を小さく呼ぶ。まるで、野々宮くんに名前を呼ばれて、我に返ったような反応。

 やがて、力無くうなだれて前に倒れそうになる由良城さんの身体を、野々宮くんはぎゅっと抱きしめた。


「慧。大丈夫。大丈夫だから。落ち着け。ほら、息を吸って……吐いて。大きく深呼吸して」


 優しい声音で宥めるようにそう言われ、素直に言われた通りに息を吸っては吐いて……を、野々宮くんの腕の中で繰り返す彼女。

 由良城さんの狼耳や尻尾は、伸びた牙や爪と同じように完全に引っ込むことは無いままだけれど、さっきまでのような殺意のような……人ならざる狂気じみた感じは、しなくなった。

 野々宮くんのおかげで気を鎮めた様子の由良城さんに、一同はひとまずホッと安堵の息を吐くけれど。

 由良城さん自身が恐怖の対象者──〝人狼〟だということはもちろんのこと、その由良城さんの直接的な手によって、如月さんが食い殺されたということも……この場において、救いようのない〝事実〟そのもので。


 ──部屋の中が、張り付いた空気のままであることは、変わらなかった。
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