汝は人狼なりや?(※修正中。順を追って公開していきます)
「だいじょうぶだよ」


 物心つくくらいから少女と仲良しで、いつもそばにいてお話したり遊んでいる人間の少年は、優しく微笑みながら言う。


 ただの(エサ)なのに。

 どうしてこうも優しくて、あたたかいのか。


 両親は人間の男の子と仲良くすることを良く思っていなかったようだけれど、少女は両親の教育(洗脳)よりも、自分にとって何故かあたたかい存在である人間の男の子の方に手を伸ばす。


「私の正体が人狼だって疑ってすらいないし、最悪、バレても非常食にはなるから」


 〝非常食〟──なんて、少しも思ってもいない嘘をついて、両親からの目を欺いてまでしてそばにいることを選ぶ始末だ。

 自分が悩んでいる時、まるで心の内をすべて見透かしたように欲しい言葉を的確にくれる少年のことを、少女はいつしかかけがえのない存在のように思い始めていた。

 自分の行いが正しいことなのか。自分は本当は何者なのか。自分は生きていてもいいのだろうか。そんなことを考える少女の傍らで、少年は嘘偽りのない真っ直ぐな言葉を放つ。
 

「何があっても、さとりは、さとりだよ」

「……ありがとう。さとし」


 一文字だけが違う名前の、人間と人狼の子。

 少女は、この人間の少年の前でだけなら、本当の自分でいられる気がした。自分の正体を人狼だと隠している時点で本当の自分なんて出せてはいないけれど、それ以外では……それ以外でのことなら、本当の自分で生きていきたいと思ったのだ。
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